医師の役割を果たし責任大きい助産師  妊産婦の希望を全面的にバックアップ

■助産師とは・・・患者を診断してから治療計画を立て薬を処方

アメリカで活躍している助産師の数は、約12,700人。その活動範囲は健康な妊産婦さんを対象として妊婦検診、分娩介助、外陰部の局所麻酔、会陰切開、縫合、産婦人科検診、子宮ガン検診、乳ガン検診、性病・膣炎等の婦人科疾患の治療薬の処方、経口避妊薬の処方、IUD(子宮内避妊リング)の挿入、更年期ホルモン療法、産前教育など多岐にわたります。またハイリスク妊娠については産婦人科医と協力して診療に当たり、帝王切開の時には、First Assistとして手術の縫合なども手伝います。

アメリカの助産師は、患者さんを診察・検査し、診断名を決定し、その治療プランを立て、薬の処方をするという、ほとんど医師と同じ役割を果たすため全員医療過誤保険に加入し、法的にも自分の医療行為すべてに責任を負います医療保険においても医師と助産師の区別はなく、診療行為に対して同額が保険会社から支払われます。分娩費用も同様です。

 

アメリカで助産師 (Certificated Nurse-Midwife)として働くためには、看護師の免許を取得してから、大学院で2年間の助産師プログラムのコースを取るか、1年間の認定校のコースを取るか、あるいは、看護師の免許を持っていなければ、大学院で3年間の助産師プログラムのコースを取って、アメリカ助産師協会 (ACNM: American College of Nurse-Midwives) の助産師資格試験に合格しなければなりません。

2014年4月までに、ACNMによって認定されている学校は大学院38校、私の場合はエール大学大学院の2年間の助産師プログラムを修了して、看護学修士号を取得しアメリカで初めての日本人開業助産師となりました。

 

 

■日米のお産の違いとは・・・

1)日本に比べ入院期間が短く、医療費がバカ高いアメリカの出産

2)夫が必ず出産に立ち会うアメリカ

3)自己主張するアメリカ人、医師任せが多い日本人

 

アメリカの妊娠・出産が日本と大きく違う点としては、まず医療保険制度が挙げられます。

アメリカでは正常分娩、帝王切開に関係なく、保険によって医療費が支払われるのに対し、

日本の場合、正常分娩はすべて自己負担となり、帝王切開や妊娠性高血圧症などの異常事態のみ、健康保険が支払われます。

 

アメリカでの出産費用は、自分で支払う場合、正常分娩では病院での2泊3日の入院費と分娩介助費と妊婦検診費(血液検査や超音波検査の費用は含まれない)を合わせて、約2万5000ドル、帝王切開では、4泊5日の入院費と手術費と妊婦検診費を合わせて約4万4000ドルと非常に高額となっています。日本の5日間の入院で約40~70万円の相場と比較するとアメリカでは極端に入院期間が短く、医療費がバカ高いといえます。

 

現実問題として、アメリカでは民間の医療保険に加入する費用が大変高く、安くても個人加入が月約500ドル、夫婦だと約1000ドル、子供を含めた家族だと約1500ドルです。

2014年4月よりオバマケアが始まり、形式上アメリカも国民皆保険になりました。

以前の民間の保険のように、既往歴があると保険に入れないとか、高額な医療費の為に全部の貯金がなくなったり、家を売ったり、それでもその支払いができずに、自己破産をしたり、その為にホームレスになる人が少なくなると考えられています。

 

次に、病院における出産では、90%以上の夫婦が、硬膜外麻酔を使った無痛分娩を希望しており、以下自然分娩-帝王切開-吸引分娩の順になっています。妊産婦は入院すると、LDR(Labor Delivery Recovery room)と呼ばれるトイレ、シャワー、電話、TVのついた個室に入ります。そこで陣痛を頑張り、分娩をし、退院まで母児同室制で育児をするというのが大きな病院では一般的です。

会陰切開については、アメリカではほとんどの場合、膣から肛門にかけて、真下に切る正中切開が主流で、日本のような側切開はほとんどありません。縫合糸もChromicやVicrylを使用するため抜糸が一切なく、創部痛を訴える産婦も側切開をする日本と比べるとはるかに少ないです。

 

出産の際の立会いに関しては、アメリカの病院では、夫が必ず立ち合い、場合によっては夫が赤ちゃんの臍の緒を切ります。産婦が希望すれば、母親や上の子供たちの立ち会いも可能です。帝王切開の場合でも、夫は必ず手術室に入って妻の手を握り、一緒に出産の感動を分かち合います。日本でも夫の立ち会いが増えてきたことは、ともに生命誕生の素晴らしさを共有し、妻をいたわり、親としての自覚を持つ意味でもとても喜ばしいことです。

 

入院時の食事は、病院では麻酔をかける可能性が常時あるため、いくら分娩が長引いても、小さくした氷しか与えられません。妊娠中のビタミン剤摂取も、アメリカではニ分脊椎症や口蓋破裂の予防という点で当然とされていますが、日本ではバランスの良い食事で妊娠中の栄養素を取るというのが一般的です。

 

お産に対する意識をみると、アメリカでは、妊産婦は自分がどういうお産をしたいか、はっきりとした意志を持ってお産に臨みます。個人主義という国柄もあって、妊娠・出産について夫婦共に非常によく勉強し、インターネットを使っていろいろな情報を集め、出産プランを練り、自分たちの希望する出産方法を応援してくれる医師・助産師を探します硬膜外麻酔をしたい、家族に囲まれて自然分娩をしたい、会陰切開は絶対にしないでほしい、などなど、さまざまな希望をはっきりと主張するのです。だから医療サイドも、妊産婦が希望する出産方法を、全面的にバックアップし、感動に満ちた、満足できるお産を実現しようとします。

 

一方日本の場合、妊婦さんたちのお産に対する意識はかなり進んできてはいますが、それでもまだまだ人任せ医師にお任せが多いのではないでしょうか。

さらにアメリカでは、自分の体は自分で守るという考えが浸透しており医師・助産師の説明に納得できない時は、セカンド・オピニオンという形で、他の専門家から意見を聞くことができます。当然ながら、それにかかわる費用も保険会社が負担します。

 
 

■多くの問題点・・・日本人妊産婦のケアは、コミュニケーションが大事

日本人女性がアメリカで妊娠・出産をする場合、様々な問題に直面します。

まず第一に、言葉の問題があります。医師・助産師・看護師など医療スタッフと十分なコミュニケーションが取れないと、聞き間違えたり聞き漏らしたりとても不安な状態で妊娠・出産を迎えることになります。

 

第二に、医療保険制度の違いから来る問題が、挙げられます。入院期間が極端に短いことや、高額な医療費、また、複雑な保険の仕組みを十分に理解せずに、保険が支払われなかったり、英文の保険申請を自分でしなければならないなど、経済的にも大きな問題です。

 

第三に、文化・習慣の違いからくる問題です。男の赤ちゃんの70%以上が、割礼していることや、授乳の際に、母親の乳首を清潔にするように看護師が言わないこと、臍の緒が取れるまで沐浴をせず石鹸のついたスポンジで体をふくだけなど、文化的に受け入れがたいことがたくさんあります。

 

第四は、家族や友人が身近にいないことからくる問題です。頼みの夫も海外駐在員という立場上忙しく、朝早くから夜遅くまで家にいないことなどにより、女性は孤立を深め、精神的にも不安定になっていきます。

 

このような背景の理解なしには、助産師として援助することはできません。私が日本人妊産婦をケアするうえで一番大切だと考えているのは、コミュニケーションを十分に取ることです。妊婦検診の時にも多くの時間をさいて、日米の医療保険制度の違いのほか、妊産婦の訴えをよく聞き、一つ一つの検査や診察行為について説明するなど、上記の問題からくる不安の解消に一番注意を払っています。また両親学級は、アメリカの妊娠・出産にまつわる様々な問題を説明するのに絶好の機会なので、いろいろ工夫して活用しています。

 

 

■楽しいお産がモットー・・・妊産婦が主役。24時間妊産婦と共にいる

私がアメリカ人助産師と比べて違う点は、患者さん全員に、私の24時間電話(携帯電話)の番号を教えていることです。これで妊婦さんはどんなときでも必ず私に連絡が取れ、その結果緊急時にもすぐに対応することができます。この直通電話は、患者さんにとても好評です。また病院見学などは、私が案内係となり、入院してから赤ちゃんの誕生まで、どういった手順を取るか、詳しく説明しています。

 

実際にお産の際の入院時も、最初から受付で待っていて、その後も赤ちゃん誕生・産後2時間まで必ず付き添います。分娩中は、出産の経過を詳しく説明したり、マッサージをしたり、時には話相手となりながら、一緒にお産を乗り越えます。それから、病院にはCDプレーヤーを持参し、お産の間中ずっと音楽をかけてリラックスさせたり、呼吸法も工夫して、陣痛の痛みに意識を集中させないようにしています。

 

出産後は、マンツーマンで授乳・育児指導を行い、2泊3日で退院した後は、毎日電話で産後の状態をモニターします。産後の検診は、1週間後と1ヵ月後の2回です。

 

英語「Midwife」(助産師)は直訳すると、「with woman 」で「女性とともにいる人」となります。私はこの「助産師」という仕事を「天職」として持つことができたのを、本当にうれしく誇りに思っています。私が目指す助産師はいつも明るく元気で、体力があって賢く、「楽しいお産」をモットーに、太陽のように妊産婦さんのそばにいて、暖かく見守り続ける、そんなイメージです。

 

 

永門 洋子(ながと ようこ)助産師

1979年 東邦大学看護専門学校卒業

1980年 日本赤十字社助産婦学校卒業

            日本赤十字社医療センター勤務   

1981年 青山学院大学文学部英米文学科卒業

            東京医科歯科大学病院勤務

1988年 米国ボストン大学で語学研修

1989年 ハーバード大学で女性学を学ぶ

1995年 エール大学大学院卒業

            看護学修士号取得, ACNM助産師資格取得

1996年 ニュージャージ州で助産師クリニック開業

            アメリカで日本人として初の開業助産師となる

趣味は、読書、野球観戦 (NY YANKEESの大ファン)

永門洋子助産師
永門洋子助産師